ー過ぎゆくもの、留るものー【贈る言葉/望月敬明先生の巻9】

 つい先頃、テレビをみていて、心にとどまる”江差追分”をきいた。92才という高齢の御老人のその唄は決して気負ってはいない。むしろたんたんと唄われているように見受けられた。
 その唄は、心のゆれるままに高低長短を微妙におりまぜてゆれ動き、北海の江差の海を、その浜を、その土地を、そしてそこに生きつづけた人間のいとなみをこの一ふしに凝結した、そんな感動のあるいい追分でした。唄もここまでくればたしかに文化といえる、そんな思いさえしました。こちら側、きく人の心にしみ透り”とどまる”うたでありました。
 さて今日ここでうたわれる若人のうたは、当然のことながら、若さをうちに蔵し、そこに発酵され、そしてほとばしり出る心の発露としてのコーラスであります。どうぞ、そのうたが、きく人の心の前をたんに”過ぎゆくもの”としてでなく、そこに”とどまるもの”、”とどまるうた”として展開されることを念じ願うものです。

1976年12月11日
顧問 福井大学教授 望月敬明

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